2019年5月5日日曜日

 みすごせば闇のふくらむ聲。まにまにあなたはおおきくなる重くなる。いくつもの波の遥か向こう側そんなに緑の島の遠くからやってきてモノクロームほどにすきとおった顔をして予告なくわたしを襲う。とてもぶあつくわたしをふせる。重い。(フィルムの回る音)
 凄っごく重い。たっぷり蜜ふくみくちいっぱいの夢にいるあいだは、なにもかもがミルク色の闇。ただひとすじのさけび聲。
 一齣ひとコマ整然と細かく仕切るのが規則だそうだ。定められた時間を区切り、次の部屋また次の部屋へと追い立てられ、範囲内でそれなりに工夫をこらすのが職人だそうだ。次から次へとシークエンス刺激すてき驚き。
 つかのま。唐突に苦味に変わるタールと血と剥がれ落ちた老廃細胞とで愕然と。
(ここにいるのは死後の夢なのか。)
(轟く雷鳴も稲光もついに無く)
 気がつけば転がりはじめている。待っている。呼んでいる。蟻ぢごくの主はうしろむきにふかくもっと深く、砂丘に沈みこみ犠牲を招き寄せている。それなのに加速度を増してすずしくやってくるいきなりと裏切りと。がらがら分散するアルバムにデッサンに。ぱあっと花散る紙片たち。泣きたいほどにあなたは重い。
 いつかは着色しなければならないときがくる。黄色か橙かどんなにテクニカラーの声なのか赤かアグファかわたしが決めなければならない。
 東男としてはやっぱ富士にする。ここは石鹸のくに蒸気の群れひとの肌あわあわあたたかく、心地よく終まうことができよう。ほの明るい青紫とチェリーピンクの光の考察する間があっただけ幸せと思いねえちゃん愚図愚図してたらおかみが請求書持ってにこやかにお邪魔さん。どうする?いくか?いこうよいっちまう週末までまだ微かな希みはつなごう。
 ぷかぷか湯だまり。浅いくぼみ。あちこち飛び散ってはだかで漬かって(眼鏡は割れて)まるで血の池に見える。
 こんな夜、
 ヒトがメイクラヴの隙間にすっぽりはまりこんで夢中の沈黙の空疎のただなかにあるとき、例のヒネ鶏アルトの(言葉のない)唄が、聴こえてくる。
 スピリチュアル
 この不味い(冴えたギターの縁にきわどく立ち)コーヒーにスピリッツを一滴だけ落とそうか(電子音の分厚い靄におおわれて) それで少しはマシになるなら(どうして沈黙はいつのまにか)
 マシになるさ(どろどろの雄弁にすり替えられるのか)
 (なまのAをください)
 (なまのAをください)
 (その黝いカラオケボックスの先にある)
 (なまのAをください)
 化粧箱に入れられ飾り棚に美しく並べられた警告の巻など見るもうんざりなのだが、いまはそんな神話を検証するくらいしか仕事がない。どこがロマンチックやねん。
 かったるいアタマに収められたものはもう整理されてしまってカオティック鏡はない。編集され切り取られたテープの端っこに、ほんとうに記録しておきたかった音楽があったはずなのだ。貼っつけられた写真の裏側に、ほんとうに焼きつけておきたかった記憶があったはず。
 死すべき螺子
 カチッと外れる。

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