2023年10月27日金曜日

天使の影

イングリッド・カーフェンの白い背中
背中の広い逆三角形
白い広い三角に 肩甲骨の影が宿る
天使の影
がよこぎる
その白い三角が シナイ半島にみえる



彼女をいたぶる
男たちの 胸元の ネクタイの曲がった
細い白い逆三角形は
イスラエルか

ユダヤ人が
ヨーロッパ人にとって躓きの石なら 

パレスチナ人は
虫けらか
駆除すべき害虫か

ガザは
ネクタイについた シミか
皆殺しは 漂白か

イングリッド・カーフェンの背中の三角
すべての闇を呑みこむ


2023年9月25日月曜日

をさなごころに

たいせつなひとに嘘をついてしまった日の

たいせつなグラスを割ってしまった

むくいや

むくむくと いいわけ いくらでも
いくらでも わきでても なんのやくにもたたぬ
とりかえしのつかない


こんなとりかえしのつかない

を くりかえしながら

たいせつなものを
ひとつ ひとつ こわしていく

むくいや

2023年9月14日木曜日

あけがたの夢で

あけがたの夢で 横向けに寝ていたわたしの口から
花びらのように次から次へとことばがふきでてこぼれおちる
わたしの頬や胸がしわくちゃの茶色の包装紙で 空気をいっぱいふくみ
あたらしいことばたちをふきだして
ああこんなに自由に
ああこんなにたくさんの ことばたちが
そこらじゅうを舞っている

しばらくすると
半睡の夢から意識がすこしずつ覚醒して
ふくらんでいた包装紙を 縛る紐があらわれる
いっぽん にほん …
紐がつぎつぎと掛けられて わたしのからだを縦横にしばり
ことばの ふきだし口もふさぐ
あんなに いっぱいあったのに
あんなに 気ままだったのに
縛られてしまって窮屈に揃えられたことばがいま
今日つかう言葉としてわたしのなかにスタンバイする

ああこれだから
いつもいつもありふれた言葉しか出てこないんだ
縛られた思念 整えられた思考 なにかに号令されて
きょうのわたしのことばも いつもとおなじく
狭いからだのなかに押し込められ
整列させられ
世間に 通りの良い言葉として発せられる

あけがたの幸福な夢は そうしてふっとび
きょうも いつもとおなじ 退屈な ことばの日暮らしがはじまる

それより以前 夜中

熟睡しているわたしのなかでは
真夜中に きっとわたしの下腹あたりにかたいかたまりができ
ことばたちの種が詰まったかたまりは
一晩中かけて胴のなかをとおりぬけ
胸でふくらみ
頬でふくらみ
あんなにも はげしい
ことばの乱舞をひきおこしたのだ

2023年9月13日水曜日

台風LANちゃんが来た日

沖縄を睥睨してった台風6号は
まるでプレデターみたいやったね
肉食爬虫類が鋭角に向きを変えて
獲物を追って走り回ってるみたいやったわ

とかなんとか言うてると
次の台風7号が・・
とLINE友だちから一報
台風チャンネルで確かめると
なるほどその通りで
そこからは
3時間ごとぐらいにLINEが入り
台風の愛称をつかって
LANちゃんいまどこ
LANちゃんどこへ行く
外はいまこんな感じ
LANちゃんどこやぁ・・
その都度台風の位置を確かめると
近畿を直撃するコースになってたり
少し東寄りになってたり
西寄りになってたり
確かめるごとに予想コースがちがってる
しかしどうやら明日上陸は確実かな?
明日はそもそもお盆で仕事がなく
実家に帰るつもりやったけど
早々と「来んでええよ」と電話あり
そのあと映画2本観るつもりやったけど
早々と「明日は休館です」のお知らせメールある。
けっきょく明日は自宅軟禁かい
暴風警報波浪警報大雨警報
特別な警報が出てる地域もある
鉄道調べるとJRは軒並み運休
おお環状線も止まるんかい

目が覚めてまっさきにテレビつけ
まず東海地方の局がレポートしてるのが見えて
さては東寄りのコース行ったかな?
と思うと今度は神戸が映り
どうも淡路島のあたりにいるらしい。
そこからどういうコースを辿っているのかようわからん
アパートの11階のサッシ窓の内は静かなもんで
風の様子も雨の様子もわからない。
静かやな
以前の台風で
サッシを叩きつけるように雨風吹き荒れたときとえらいちがうこと
LINEともだちからのLINEはない

午後3時。そろそろ外に出てもいいかな?
窓の内にいると静かなもんやったけど
扉あけると雨音ざーざーして結構降ってるのがわかった
のでいったんあきらめる。
暴風警報大雨警報もまだ解除になっていない。
午後5時。そろそろいいかな?
扉あけると雨音なく
下界を望めばだいぶ小雨になっている模様。
よし、歩きに出よ!
コロナ禍で仕事もない映画館も開いてないジムもやってない頃
よくそうしてたように
雨の日は雨に濡れない商店街を行ったり来たりで歩数を稼ぐ
歩き始めると
風雨が収まるのを待ちかねていたのか
結構商店街人通りが多い。
お盆でそもそも閉まってる店 台風で閉まってる店を除くと
開いてるのはパチンコ屋カラオケ屋呑み屋のたぐい
みんな居場所が欲しいのだな
天満駅の近くを通りかかると
頭上を電車の音が駆け抜ける
おお環状線が動いてる
しばらく歩いて帰りにまた駅の下を通りかかり
環状線が動いてる

うちに帰ると
昼間音無しだったLINE友だちからLINE
よかったねー大したことなくて
互いの無事を確かめあい
なんせ21号がトラウマになってて
台風と聞くとしばらく前から生きた心地せえへんねん
昨日の頻繁なLINEと
今日の音無しはそれだったか・・
その21号のときは・・の話になる
そうそう今日思い出してたのもそのときのことで
あの日はサッシを雨風が叩きつけて
知り合いのマンションで隔壁が吹っ飛んだ
LINE友だちのトラウマも大風によるものらしい
あの年は大阪地震もあったんやったね
そうそうそっちのほうは堅い地盤のおかげでなんともなかったんやけどね
うちもなんともなかったんやけど
北摂の方がひどかって・・
たぶん何度もした話
台風のあとしばらくして
友人のお連れ合いが亡くなって
震災のかたづけの流れやから
あれは完全に震災関連死やと思うけど・・
友人自身はそれどころやなかったようで・・
たぶん何度も繰り返した話
これからも繰り返す話

2023年8月28日月曜日

FukushimaWaterRelease3日め

果物屋の店先で
今年初めての青蜜柑を見つけた
うれしい
ことに青いのを選んで買う
今どきの青蜜柑は昔と較べで酸っぱくなく
物足りないけど
それでも青いほうが酸っぱみがあるような気がして
青いのを選んで買う
酸っぱいのが好きなんです
このごろは苺なんかもめちゃ甘くなっちゃって
いつかヨーロッパの市場で買った苺が
見た目は日本のと変わらないのに
酸っぱみがきつく野生味もあって
こちらの方がわたしは好みだったな
…てそれはまた別の話
目の前の青蜜柑は高知産

魚屋さんの店先に来て
   鮪の刺身を食いたくなったと
   人間みたいなことを
わたしも思うのだが
ホントは鮪よりハマチの方が好みなのだが
これからさきの日本の漁師さんたちのことを思いやると
心穏やかではいられない
山之口貘氏が
   死んでもよければ
   勝手に食えと
うたった灰かぶりの鮪の灰は
アメリカさんの落としたものだったけど
このたび太平洋を汚しているのは 日本の灰なのだ
そんなギフンにかられつつ
長崎産カンパチの刺身を買う

いつものように
車のかげのない赤信号の交差点を渡ってると
向こう岸にいるおっさんが
「おばはん赤信号やど」
とわたしを指差して言った
わたしは中指を立てたりせず
にっこり笑って通り過ぎた

※引用は山之口貘「鮪に鰯」より

2023年8月25日金曜日

FukushimaWaterReleaseの日に

さいしょの雷鳴が耳にとどいたあと
一瞬だまって一緒にそれを聴いていた
目の前の相手が
「雷ですか?」と言った。
「雷ですね」
ここからは窓が見えないので
外の様子がわからない。
それからまた何度か雷鳴が聞こえた。
部屋の空気がふっと肌寒くなる。
雨音は聞こえないが
雨の降りだす気配
雷も何度も鳴る。
仕事の合間にさっきの相手が
「雨降ってますね」
「うん、そうやね。傘持ってきてる?」
(わたしは晴雨兼用日傘がある)
「いいえ、日傘だけ…」
しばらくすると彼女は
外に出ないといけない。
「その日傘で雨除けになる?」
「…ううん。きっとぐしゃぐしゃになってダメになってしまうと思う」
どこかで雨傘を借りたら…とかなんとか言おうかどうしようかの間に 彼女は席を立つ
「お気をつけて」
わたしはまだしばらく時間がある。
しばらくこの建物の中に居よう。
廊下から外の様子を窺うと
土砂降り
犬猫降り
すごい降り
iPhone見ると
LINE友達から
「(わ)(ー)
 ついにドシャブリ来そう~
 南の空真っ暗 雷ゴロゴロ(thunder)
 雨雲レーダー真っ赤な雲の塊😱」
と絵文字付きで
降り出す直前のメッセージ
ここんとこ大阪ではまとまった雨降らなかったもんね。
外の様子のわかる部屋に移動すると
ますます雨脚強くなってく模様
天気アプリ確かめると
なんと大阪に大雨警報と洪水警報と雷注意報が出てる
いつまでもこの場には居てられない
わたしもあと45分ぐらいで出ないといけないのだが…
「止んでくれ〜」
友だちにその旨LINEすると
「1時間くらいでやむと言うてる」
と情報くれたうえで
「祈ろう」
と祈ってくれる。
あと30分
読んでる本はいまヴェネツィアにたどり着いた
あと20分
ヴェネツィアの聖堂に行く(わたしも行ったな)
あと10分
次はドイツに行くらしい。
LINE友だちは大阪市内の別の区に居て
「こっちは小降りになって雷も遠くなってるんだけどな」
こちらもマシになってきたかな?
あと5分
意を決して席を立つ(小さな決意だこと)
建物の外に出ると
小さな晴雨兼用傘で間に合う程度の降りになっていた
傘無しでずんずん歩いてく人もいる
時折稲光が光る
交差点の手前で雑居ビルの玄関先を借りて少しでも雨をやり過ごした
JRにしようか地下鉄にしよか
少しでも歩く距離を惜しんで地下鉄にした
祈ってくれてたLINE友だちは
「一時的なものかもしれないけど雨は止んだ」と。
「こっちは止んでないけど小雨になってて小さな晴雨兼用傘で大丈夫やった。ご心配ありがとう」
「よかったね!」
絵文字で拍手してくれた。
次の目的地に着き
地上にあがると
もう雨は止んでいた。

それから夜になって仕事終わりになじみの呑み屋に行ってライブ聴いて帰ってくるまでに会う人会う人
「すごい雨でしたね」
とひとしきり。
どこが降っててどこは降ってなくてどれくらい降って雷は鳴ってどれくらい降り続いてどこでいったん止んでまた降り出したか
会う人ごとに把握したよ

家に帰ると
LINE友だちから不思議な写真が届いていた
「不思議な光景だったので…
 ちょうど日の入り
 まだ降ってるのか東のドン曇りの空に建物がスポットライトを浴びて浮き出たようでした🌇」 

なるほど不思議
道には誰も歩いてなくて
空も空気もまだ灰色の世界に
夕暮の日差しだけが黄色く輝いて
道の奥のほうと
両道端のビルの裾より上の側面を照らしている。
黄金色のビルが立体的に浮かびあがり
こちらに迫ってくるようだ
不思議な遠近感

日常詩(というラベル)

まるまる3年新作できずコロナ禍で鬱々というよりうつつだったのかとにかくここも放置していたわけですが、このごろ即興表現やらポエトリーリーディングやらに顔出すようになってからそろそろともう一度書いてみようかなという気になりはじめ・・

とかもったいぶってますね。たまたまこないだ台風の日にふと風が収まってから散歩しながら、目に留まったもの自分がやってること意識にのぼることをそのまま普通の言葉で書き留めるような感じの詩を思いついた。

こんなんもええんちゃうかな? で、夕立のあった日、それからまた次に夕立のあった日、そして昨日(2023年8月24日)大雨の降った日、に作った詩を公開します。

ラベルつけると「日常詩」かな?いやこの調子やと「天候詩」になるのかも・・

わたしにとっては新境地だけど昔からこういう詩(東西問わず形式問わず)も数多いよね。

夕立とすれちがった(2)

夕立とすれちがった
閉め切った室内で仕事してたので
外で雨が降ってるのに気づかなかった
建物から外に出ると
道路が濡れていた
濡れた地面の匂いがほわんと立った
ガソリンスタンドの前を通りかかると
ガソリンの匂いがツンときた
マンホールのそばを通りかかると
下水の匂いがむわっときた
けっこう降ったのかな?
でもまだ降り足らないとでもいうように
空気は湿気をふくんでもわっとしてる
時折パラパラっと名残りの雨しずくが落ちてくる
道端の
なんの用をなしてるのかわからない棒の先に
渡した横棒の両端に天秤みたいに風鈴が二個つるしてあって
不機嫌そうにチリチリンと鳴っている
しばらく歩いてると
地面が乾いてきて
乾いたところと濡れたところがまだら模様になってくる
空はまだどよんと曇り模様
むしむし気温も高い
とおもうとまもなく
またバラバラっと雨が降ってきた
水溜りに水の輪が重なってパラパラっと散った
けっこう降ってくる
あわてて傘をさす人(わたしをふくむ)
手に持ってるなにか(かばんとか本とか)を頭にやる人
雨の中を信号待ちするのが嫌なので
いったん地下にもぐって交差点の向こう側に抜けることにする
地上に上がるとそのまま濡れない道を通って
スーパーに入った
暑いなか歩いた身体をいっとき冷やすため
スーパーも心得たもんで
キンキンに冷房を効かせている
スーパーを通り抜けて外に出ると
もう雨はやんでいた
青空さえちらりと見える
日差しさえ時折ちらりとさしてくる
通り一本隔てた
べつのスーパーに寄って
トマト一盛り480円也と特売コーナーの竹輪20%引を買った
うちに帰り着くとすぐシャワーをあびた
竹輪を齧って缶ビールをあけた
窓から外を見ると青空と白い雲がみえた
夕立とすれちがった

それからしばらくしてまた家を出ると
まだ明るくて青みの残る空に
三日月以上半月未満の月が綺麗だった


電車に乗ってiPhoneでこれ打ってると
隣に立ってる人が
ライトがついてるよと
身振りで教えてくれた


夕立とすれちがった

神戸から帰る途中の電車で
夙川あたりでバラバラバラっと大きな音がして
雨粒が車体を叩きつけているのがわかった
「わっ!雨」と思って目をあげて窓を見ると
雨粒がたくさん車窓にあたってながれていくのが見えた
隣に座ってる人もわたしと
同じ方向を見やっていた
だけどそれはたったいっときで
電車が進んでくと
すぐ雨音も雨粒もなくなって
十三に着く頃にはすっかり晴れていた
地元に着くと地面が濡れた形跡があり
小さな水溜りがそこここにできていて
プラスチックの庇から水がぽたぽた落ちている
ところがあった
夕立とすれちがった

あとで聞けば
西宮に住んでる友人は雷付きで結構大降りだったと
大阪に住んでる友人は「おしめり程度だった」と
いうことです。