2024年2月20日火曜日

せかいの まなかいに

せかいの まなかいに
とつじょ として あらわれる もの
とつぜん きえる もの
él apareció
él desapareció
きえるものは あたかも それが宿命であるかのように ふっと消え
ふたたび あらわれる。 わたしの まのあたりに
祝福のように?
あるいは まがまがしく?

せかいの まなかいに
おおぜいの まなざしに ふちどられて
きえろ きえろ
の声に 追い立てられ
あえなく きえる ものたち よ
無念である そんな 運命は不当であると いくら嘆いても
あがいても あらがいても
きえろ きえろ の声は きえない
きえろ
きえろ
te quiero
te quiero
あいの ことばは とどかないのか

せかいを めぐる おおぜいの まなざしは
消えろ と te quiero  を まのあたりに して
まつげ を ぬらし
まゆげ を ひきあげ
せかいの まなかい に たたずさんで
かたりかける
かたる かたる かける かける
どうしようもない無力さに さいなまれながら
まなざしのひとつとして かたろうとする
他のまなざしと
まなざしを かわす
おおくの まなざしが 交錯する

まぶたをとじて
   さきをみる
 さきに あった こと
 さきに あった もの
 さきに あった ひと
 さきに あった まなざし
 さきに あろう こと
 さきに あろう もの
 さきに あおう ひと
 さきに あおう まなざし
 邂逅
 めぐり あう まなざし
 めぐる まなざし
まぶたの うらに
あなたは なにを みているのか?
せかいの まなかいに
せかいの まぶたの うらに

したい

あたま
あたま
あたま
あたま
あたま
あたま
  はら
  はら
  はら
  はら
    あし
    あし
    あし
    あし
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
     したい
 よそ
  よそむく
よそゆき
  よそごと
  よそよそし
   よそごとし
   よそおい
   よ
    そっぽむく
     おいかける
   よそのひとびと
よそうできない
よそよそ
よそう
よしな

 よしな
 よしなにするのは
 よしなし
   しょちなし
  よろよろ
   よろしく
   うろうろ
  うろん
  うらうら
   うら
 うらぎり
うそ
うす
うつ
うつろ
うごく
  めく
うく
うい
うめ
 うん
  ふうん
   うんめい に はこばれてゆく はこ に おい わかき つれもて はるか はすかい まだ まだ できぬ うらめし めしや かなし かなしみ ふせず ふしん ふらん ふじん ぎふん ばふん ふまれ ふみ つぶされ だつ だかつ だって だっち おらんだせい きかんじゅう の むこう に いち じょう の め がある。せん じょう の ひかり がある。ひかる や やさし やさり やさぐれ やれん やらん やらなん
やって
やろう
    じゃん
やりたい
やりて
やりたい
 したい
  と とも に ある
            とき
         あるく とき。

 したい
    と とも に ありなむ
          ありてむ
         あらなむ
        ありて
       ありかむ
      あらあら
          まほし
    あるかむ
   あるかなむ

 したい と とも に
ありかなむ。

      あるこう
       みんな

       ひかりの
       みちを

       あるこ! 

2024年1月16日火曜日

Oくんはね

Oくんはね
おっきいから 自分のこと Oくんてよぶのかな
なんて あほなことを 夢想してたら
当のOくんが わたしを上からのぞきこんでいて
一緒に帰ろ って言ってくれるのだ
やった! 一緒に帰る相手ができた
だって この帰り道は ひとりじゃ不安
途中に 怖い秋田犬のいる角があるんだもの
Oくんがね 一緒に帰ってくれるのだ

テニスコートの外側の道を 大回りしてあるく
ふたりであるく
川沿いの道を ゆるゆるあるく
ふたりであるく
ぽつぽつ しゃべりながら あるく
前になったり 後ろになったり
ならんだり ずれたり
ちらりと見たり 見なかったり
おたがいを見たり 見なかったり
お花や草や虫や小鳥や ちいさなものに目をとめたり
電車の音や川の流れや鳥の声に耳を澄ませたり
樹のはだに 触れたり
木漏れ日を 透かして見たり

Oくんは 大きなどんがらして 意外と小心者で
自分のことをみんなが噂しているのがつらい
ぼくの肘のことを あんなふうに 言われたくなかったんだ
って 悲しそうに訴える
そうだよね
あんなふうに 言われるの つらいよね
(気にせんとき とは 言わないでおく)
その他もろもろの
よしなしごと
ぽつぽつ しゃべりながら 聞きながら
帰る 道みちが たのしい

だけど ふいに気づくのだ
帰り着いたら
わたしたちは 別れなければならない
えっ そうなの? Oくん
お家にたどり着くと わたしたち そこでお別れなの?
Oくん そこは織り込み済みなのか
平気な顔して微笑んでいる
わたしは そのことが 気が狂うほどつらいのに
Oくんは 悲しくないの?
わたしたちの帰り道は
たどり着いたところが 終わり
終着点

これは 帰り道
どこかへ行く道ではない
目的地がない
だって お家へ帰る道なのだもの
帰り着いたら そこは 終点
行く行くではなく
来る来る
帰る帰る 道を
Oくんとあるく
だから できるだけ ゆっくり 歩こ
ひと足 ひと足 ふみしめながら ゆっくり 行こ

そうしてると べつのともだちから LINEがはいって
Oくんの名前がついている(でもOくんと直接関係はない)美術館で
白い梅がぽつぽつ 開き始めていると
蝋梅はもう咲いていると
写真をおくってくれる
蝋梅のつるっとした 肌合いが
Oくんの顔に似ていなくもない
わたしは 川と 電車と すっかりはだかの桜の枝えだとを
写真に撮って ともだちに おくる
Oくんのことは 内緒

ものかは

闇のなかに浮かぶ光だまりに
女の後ろ脚がみえる
膕(ひかがみ) のくぼみにやどるうすいかげ
脹脛(ふくらはぎ)
踝(くるぶし)
蹠(あしのうら)
ものとして そこに放り出されてある もの

裸(はだか) はだか はだか はだか ・・・
はだか のおおぜいの 背中 たちが
うすしろい 灰色の ひかりのかたまりとなって みえる
はだか の からだ たちは
邪魔だ
いらん もの
不要
だから 産業廃棄物をはこぶトラックに載せられ
土のくぼみに あつめられ ただに 捨てられる
埋められる
ごみ
もの
はだか たちを
不要と みなす 者たちは
人間か
人間でないか

土で捏ねた からだの なかみは
稠密で 重い
みっしり重い からだを ならべて
行進する
土の兵隊は
ものか
人間か
土をこねて
兵隊にする 者たちは
人間か
人間でないか

からだが 殻になるとき
    空になるとき
中空に火がやどるとき
火が ふきあれて 風になるとき
からだは まいあがる
のぼる くねる まがる たわむ のびる ねじれる まわる まわる まわる
とぶ とぶ 跳ぶ 飛ぶ 翔ぶ
翔ける
空へ むかって 翔ける
土を たたく はねる
地を ふみしめる 摺る ありく
ありく ありく ありく はしる
うごく からだは
ものか
ただに ものか
人間か
人間でないか

土からたちあがる 踊り手の 腕と手は
ものか
ただに ものか
カウンターに 無造作に なげだされた
女の 一の腕
ふくらみに 光がやどる
それは
ものか
ただに ものか
まわりの世界が くらがりに沈むとき
人間は
ものに なる
ただに ものに なる
人間で ないものに なる

2023年10月27日金曜日

天使の影

イングリッド・カーフェンの白い背中
背中の広い逆三角形
白い広い三角に 肩甲骨の影が宿る
天使の影
がよこぎる
その白い三角が シナイ半島にみえる



彼女をいたぶる
男たちの 胸元の ネクタイの曲がった
細い白い逆三角形は
イスラエルか

ユダヤ人が
ヨーロッパ人にとって躓きの石なら 

パレスチナ人は
虫けらか
駆除すべき害虫か

ガザは
ネクタイについた シミか
皆殺しは 漂白か

イングリッド・カーフェンの背中の三角
すべての闇を呑みこむ


2023年9月25日月曜日

をさなごころに

たいせつなひとに嘘をついてしまった日の

たいせつなグラスを割ってしまった

むくいや

むくむくと いいわけ いくらでも
いくらでも わきでても なんのやくにもたたぬ
とりかえしのつかない


こんなとりかえしのつかない

を くりかえしながら

たいせつなものを
ひとつ ひとつ こわしていく

むくいや

2023年9月14日木曜日

あけがたの夢で

あけがたの夢で 横向けに寝ていたわたしの口から
花びらのように次から次へとことばがふきでてこぼれおちる
わたしの頬や胸がしわくちゃの茶色の包装紙で 空気をいっぱいふくみ
あたらしいことばたちをふきだして
ああこんなに自由に
ああこんなにたくさんの ことばたちが
そこらじゅうを舞っている

しばらくすると
半睡の夢から意識がすこしずつ覚醒して
ふくらんでいた包装紙を 縛る紐があらわれる
いっぽん にほん …
紐がつぎつぎと掛けられて わたしのからだを縦横にしばり
ことばの ふきだし口もふさぐ
あんなに いっぱいあったのに
あんなに 気ままだったのに
縛られてしまって窮屈に揃えられたことばがいま
今日つかう言葉としてわたしのなかにスタンバイする

ああこれだから
いつもいつもありふれた言葉しか出てこないんだ
縛られた思念 整えられた思考 なにかに号令されて
きょうのわたしのことばも いつもとおなじく
狭いからだのなかに押し込められ
整列させられ
世間に 通りの良い言葉として発せられる

あけがたの幸福な夢は そうしてふっとび
きょうも いつもとおなじ 退屈な ことばの日暮らしがはじまる

それより以前 夜中

熟睡しているわたしのなかでは
真夜中に きっとわたしの下腹あたりにかたいかたまりができ
ことばたちの種が詰まったかたまりは
一晩中かけて胴のなかをとおりぬけ
胸でふくらみ
頬でふくらみ
あんなにも はげしい
ことばの乱舞をひきおこしたのだ