2020年4月4日土曜日

蟻走

帰らなければ
帰らなければ
帰らなければ
でも どこへ?

宿主の頭蓋骨の内側をめちゃくちゃに走りまわっているだけの蟻さながらに
あせりまくってはいるのだけれど どこへなにをどうすればよいのかわからない。
ぢめんにはつぷつぷつぷつぷつぷ無数の孔があいて足をとり 剣呑クラック縦横にはしって 腹まですっぽり嵌まってしまう
いっそ 其処から外界へ抜けられればよいのに
ぬけるに十分な大きさ だけは ないのだ。

ぴーーーごおおーーと音がして
其れ其こすぐ 高架をへだてた向こう側に環状線が発着する。ながい頭頂だけがみえる銀色の電車がなんぼんもなんぼんも目の前を走っていく あの駅に
はいるには まず正規の手続きを経てここから出なければならない。とさ
むこうがわに わたらなければならない。

距離的に最も近いとはいえ無駄無理ムラな内壁をつたってはしりまくるだけの危険を漸く察し 算段するフェイズをひとつさかのぼって チェックイン/アウトのために建設されたとの名を負う ビルヂングにもどる と
ここでもやはり蟻さながらに 上から下へ 下から上へと梯子をつたって走りまわること余儀なくされるのだ。いちばん下層のバァには わたくしにむやみな悪意をいだく女将がいて
みつからぬうちに とっとと去なねばならぬ。(ばぁさん確信に充ちてカラオケ曲をえらび終え、こちらが身を匿す数舜のちにふりかえる。こっちゃもう何ゆえの悪意であったかすら憶えていないのに)

最上階から何層か下までは見晴らしがよく液晶挟んだガラスの薄膜をへだててむこうのくうかんを滑りぬけていく電車がまぢかにくっきりみえる だけに そっちへあくがれる精神を逆撫でする。病篤し オフィスにはだれもいなくて 空の書類どころか窓を開けるカギさえ見つからぬ。闇がおとずれれば 磁界におとなしく したごう液晶のつぶつぶの配列かわって もとのもく闇 阿弥陀の唐変 木鐸止み 網の闇。(ふらんす語でともだちを意味するバァの名)

中階の注解の仲介の宙界の忠獪な管理人は どんな申請がやってきても「手続きを拒否する」ことのみ責務とこころえているらしいのだが かれの目をぬすんで窓枠に攀登り 警備人らにみつからぬよう ルーフテラスの補助線を越えることだけが
ゆいいつの越境の手段だと おしえられ
物干棒<─>線の定義をわすれぬよう 入念に
あらんかぎりの速度加速度でダッシュ!奪取を試みるのであるが──(脱種)
そこは 蟻の 身の 哀しさ 身の 数倍の 距離をはしる速度が 可能だ と 蟻つかいらは 褒めて くれても
そんなもん 屎のやくにも たたぬ
…チキコンチキコンチキコンチキコン………
だに
あっさり
捻り潰され

もういちど 幽界をさまよいありく羽目になるのだ。
宿主が
痒がっている。
ぶっとい蜂に刺されたように 二の腕が筋肉まるごとひとつぶんのかたちに腫れあがり わたくしが むちゃくちゃに はしりぬけていく感覚がするらしい。
にんげんは 生物の ヒトの 臭いがするからと ちかづくのもいやだ
おのれとて ヒトの 臭気を発するから だれにちかづいて さとられるのもいやだ
と いたがっても膚にふれることをいやがり
ぎりぎりぎり 蟻り蟻り蟻り と
艤装を擬装する蟻走のふゆに
じりじりじりじりじりジリじりジリと まなつの鈴むしの 鳴くことよ