2019年5月5日日曜日

あしのうら

 めを凝らすと、ふっと消える面影
うつくしい顔は、いつもフィルムの向こうに見える。鉛ガラスの蒼みがかったフィルターにぼやけて見える。ギンギン陶酔音のカーテンの向こうに、それだけ強調されて見える。おまえの
肉聲を聞いたことがない。でもたしかにその膚に指先をあてて
流れる血を聴いたことがある。
 恋しくて堪らぬ、足跡の
美味いたべものは、きまって原型をとどめぬぐちゃぐちゃの煮込み料理である。それに溢れるばかりの恩寵をふりかけて、みかけは嘘吐きWASPから教育されたようにみえても、かぎりなく陽炎に類似して地盤との接触面は純粋そのものに変わりのない穢れなき宗教集団である。憎らしいわりにはしおらしいトコもある無邪気ねカワイイなどとおとしめてはバチがあたるぜ。教育の行き届いた子供たちにはこんなに背筋のぞわっとするよな民主の悪臭がするけど、ほんに放埓放縦無双の快感は、音痴かつ聡明な悪餓鬼連中に造反有理。街ずれ貴族の理屈あるナンセンス。くしゃみ一発。
 感情は、
薬指の爪先から忍びこむ。
痺れるようにひそやかに
 幻聴
 幻臭
 幻覚
 幻みみず脹れになるまでマッチの火を灯し、一族の故郷の村を刺青で染めあげるのは、移り気な観音さまがマサカリ切分音を刻むすてきなビートだったと思う。
 吠えて吼えて哭いて啼いて唸って呻いて哀しき原点を覆い隠すには、微妙にのんびり鼓動とずれあうリズムがいちばん良い。だるい#7にディミニッシュに二ヌキに宙吊りの4にキンカン沁みる打ひびく。たったふたつのコード進行に早くずれ遅くずれしわがれてふるえてはずす声の誘惑。脳感帯に擦れてこすれてエンドルフィン。体が沈む沈みこむ。だんだん重く堕ちていく。沈む。沈む。墜落する。床全面にへばってもまだ止まらない精緻なリズムは床にめりこみぢめんにくいこみ地球のもっと芯に近いところまで落下運動あなたを誘う。
 すっかりご機嫌でおもいきり鼻の穴ふくらむ笑顔と宇宙からあやつられているとしか思えないけざやかな自動運動とをたたえながら、むらさきいろのチョコレート垂らした
鶏の
歌手は、
ぴかぴかのフロアに熱を吹き込む。
粗悪な円盤に生気を吹き込む。
しっかりかたくなったセックスにリズムを吹き込む。
きみには真っ黒のドレスが良く似合うね。
(たぶんきんきらオレンジと相性が良い)
(そんな感じに、砂粒みたいにしのびこむ雑音たち)
「きみのあしのうらが心配だ」と男が言う。
いつものおふざけ陽気をちょっと鹿爪てみせながら。
「関係ないわ。見解の相違よ」と女が言う。
意地っぱり内股ざまにハイヒールをかえしながら。男は、
そして男の背後の観客は、そのちょっぴりの仕草が見たかっただけなのだ。(ミンス肉なんかよりずっとかんじるぐっとくる)
そこにシンクロして
 去年のみじかい夏を過ごした絵葉書その他で有名だろけど現物見れば意外にこじんまりとしているピンクと白の洋館のある広い敷地のかたすみの、カストラート部屋でおきた殺人事件の犯人は、かみさまの恣意でひとりの夜鳴鴬に指名される。この節の燔祭を生きたものにするためには描写が不可欠だが、テレビにそんな暇はない。少なくとも登場人物のカオが描き分けられていれば、多種多様民族は満足という建前になっているのだ。だからVTRで
「撃ち殺して」とカナリアは言う。
「ガツンとさせて」と仔羊は言う。
「冷やして。もっと」と猿は言う。銀河にとろける焼肉の眼差しで。
 取りつけ騒ぎCDに殺到する衆愚も難儀せず、皆が皆ひつこいほどにくりかえし賢いそうだ。あしのうらと愛の国土はきっと親戚にちがいないなんて蒸気にまみれ、今夜かぎりはみんな同郷なんて淳朴阿呆なおんなじ共同体のおなじ食い物のおなじ宗教に属し、同じ地面を踏んづけているのはこれほどまでに快い。たとえ捧げものがいちばん下敷きにされても本人お月さまやりたいカメレオンでも。そして同じ時刻
 地面から浮き上がったひとびとは

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