2019年5月5日日曜日

骨と皮

 蛇足ながらフツオくんは人間である。
 とまでは多分いえる。情報はそこまで。くんづけから推論するに隣席はかれが男性であると言い張るのだがそんなことだれが断定できるものかよ。
 フツオの唯一の手がかりは、ちりぢりになって国土のあちこちで消費されてしまったあとポイ捨てされた残骸のかれかれにかれたかれの骨と古地図のパッチワークみたくボロボロにきたなく骨に貼りついた皮でしかない。というのもやせやせにやせたかれには肉というものがほとんどなかったせいでもあるが、わずかにのこった皮の裏側には意外としっかり黄色い脂肪がのっていて隙間なく骨を覆いだれがパウチっこしたのやら空気もすっかりぬけてもはや剥がせない状況になったらしいのである。それは、消息筋によれば、たった一人の職人にしか分離することのできないしろもので、その肝心の一人はついに件の骨と皮を目にすることも耳にする機会もなく、雲散霧消してしまったと伝えられる。可哀そうなフツオくん。
 私見では、ここで仕事を打ち切るのがいやしくも平成21世紀の地球環境情報化社会日本国名誉ビジネスマンの良心といえるのではないだろうか。にもかかわらず続けなければならないのは、ひとえに私のポジションにかかわっている。ああ、むごいことはひらたくいうけど、私には経費つぶしにろくな仕事が与えられる余地がないのであったった。それでもなんでもリストラされるよりましだもんねで史料編纂室にしがみついているわけなのであったのであるのであったった。
 従ってここに再現するのは、穴だらけにちぎれた皮の部分からほんなもん区別できるかよゴミちりあくた異物を注意深く取り除き、くだくだにくだかれた骨のかけらを注意深くつなぎあわせ、ぐにゃぐにゃに残った腱の部分を照合してなんとか合致した部分だけをクリップし切り貼りして記録しておくものである。いいかえれば、ここにはフツオの原型はまるっきりといって見出しえないということになる。

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