2019年6月9日日曜日

ボール箱の隅に白墨で書いたサヨナラが
君の手に届くまでの長い長い猶予期間を

ボール箱の隅に白墨で書いたサヨナラが君の手に届けられるまでの長い長い猶予期間を
発送済ボール箱のなかにかくれ棲んで砂場つくって遊びながら
カナリア獲る猫の手肢を隠匿するためのサインを偽造しながら
君に聞こえぬように何度もつぶやく je ne vous aime pas をねんいりに蔽い隠しながら

せっかち配達人にああもっと遅くもっと遅れてよと囁きながら
め立つようにと大きく太く斜めに書きつけておいた白墨の字が
もしかしてなにかの拍子にすれてこすれて消えてしまってくれないものかと希いながら

君のことをまるで知らないのにだって好きなんだもんとはいい気なもんだ!鉢植えする
ひ弱なひこばえにさらさらの砂をまぶし水気を与えて塊をいくつもこねこね団子にして
かこった砦にモビルスーツの人形と家を配しクリスマスローズをあしらいツリーをたて
1年と1ヵ月ぶりにめでたく恋唄パート2の残滓かきまぜながら

あのときよりもっと大量の薬をからだに容れる羽目になりひきかえにぽろぽろ欠落する
穴・孔・洞・瘢痕・腫脹のたぐいはあのときよりさらにでかく無数にぼこぼこに空いて
その袖にすら未だふれることかなわぬ君の繊い腕ならすっとくぐりぬけてしまいそうな
おめず臆しておびえるうちにかえってかぜに剥がされつくして無くなってしまいそうな
おもいおもい物質的条件を呪いながら避けたくて避けられぬさかづきにおののきながら

箱にはいってから君へのサプライズこしらえるドロナワに自分であきれてわらいながら
砂場に造った庭をどのように説明すれば喜んでもらえるのやら
口の中で繰り返し繰り返し君へのささやかなプレゼンテーションのリハーサルしながら

なけなしのながらながらがなくなればみじかい猶予もおしまいになるのをおそれながら
証拠物件の死体のありかの輪郭ふちどるように白いチョークで
かならず書きつけておかねば許されぬサヨナラの文字をわざと荒っぽく書きつけながら
そこがただしいアドレスかどうかも知らず君の居場所を宛先に
わたしわたしわたしのぜんぶを時計とともにとじこめて封印し
けっきょく言えることといったらこれでぜんぶ「これでぜんぶ」がぜんぶと知りながら

そのあとはせめて配送路を運ばれるあいだじゅう熱心にわらっていようとつとめている

だから
本当に届くか届かないのか覚束ないけどきっと迂回しながらも

サヨナラの痕跡がいよいよ君の目に届いたときには思い出してほしい。一瞬でいいから
ぼくの名前を        こんな署名が  あったことを
そのあとはこのこっけいなそまつなひつぎは笑いとばしてご面倒でもすぐに折り畳んで
焼却炉になげこんであとかたなく焼尽してくれていいのだから

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