2019年6月20日木曜日

うしろすがた ー 夢みるキナコ

いつも君のうしろすがたばかりみてきた。

なにかに夢中な君の
肩がふるえたり あがったりさがったり あたまがうごいたり
君のうしろあたまを 鑑賞しながら
君の感情を一緒になって味わっていた。

一心に作業する君の
背中のたたずまい 腕の動き 手の指の繊細な仕草
安らかに立った足から すこし傾けた頭まで
君の動作にみとれていた。

ダンスする君の
揺れる肩 うねる腰つき めくるめく のびる折れる交叉する 手足
俯く仰向くねじる 首あたまから 振れるたなびく髪 
フロアを踏む跳ねる飛ぶ 足先まで
君のリズムを 一緒になって感じていた。

でも 私が手をのばして触れることは許されない。
さわれない。
禁じられているから
眼だけで たいせつに たいせつに かいなでていた。

一度だけ
おまえを うしろから
つかまえることが できそうだった
一瞬
おまえの はだかの 白い やわらかい ししむらを
私の 両のてのひらに ふかく ふかく つつみこみ
いまにも 抱きあげることが できそうだった
瞬間が

でも
おまえは 私の両の手をすりぬけ
たたたたたたたっと 駆けて
空に跳びあがり
そのまま 中空に ふっと 消えてしまったのだ。
まるで 天の神に 喚ばれた
あがないの ちいさな いきもののように

うしろすがたのままで
そのまんま 永遠に
消えた
あれは

あの瞬間は

おまえの ししむらの 感触は
あんなにも ありありと 私のてのひらに
記憶されているのに

夢から醒めて ひとしきり泣いたよ。私は
ぽろぽろ 涙流して
えんえん 声だして 泣いたよ
それが夢だったのが 悲しくて
それが夢だったのに 安堵して

うつつにもどれば
君のうしろすがたは あいかわらず そこにある。
生きている にんげんとして そこにある。
躍動する ししむらとして そこにある。
でも やはり それは うしろすがたのままで
私の 手の届かないところにある。

前向いて喋ったりすると嘘つくからね、人間は。
なんて話ではない。

君は永遠にうしろすがたの ままだから。

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