2019年6月21日金曜日

地母神

MAOはスタアだから、あなたがいないとレヴューははじまらない。

最初の神話

ほかのおおぜいの神がみを従えてあなたが座るのは舞台のまん中のヴィーナスのそこで生まれたあたたかい海の泡。とてもしあわせそうにさざめく宝石たちがやさしく護る女神のきらめき栄えある台座。
夢は夢でもとびっきりの夢MAOの左手がゆらぐと至上のおんがく神を讃えるはなやかな詩篇。右手にはあくまでかるくあくまでゆったりと妖精たちの舞。共感してざわめく海。あかるく微笑む空。みんなが貴い午後になによりもあなたあなたなのはMAO。
MAOが語るのはこの世にただひとつしかないだれもが記憶にとどめているだからいちばん陳腐ないちばん聖なる物語。とても単純でエレガントな論理。完璧な序破急。まことなる寓意。MAOがあたえてくれるエクスタシーのいまのいまいまがあれば滅びのときなど怖くない。いちどかぎりの至福の時代。これっきりの真実。すみずみまでいっぱいにひろがる上等の快感。
だからわたしはだれであってもだれでなくても赦されているの。のぞみをさまたげるものはなにひとつなくながれをとどめる批判なくこのうえなきグランフィナーレ。

そして暗転

名残りも惜しくしずかにやすらかにMAOが去ればフェスティバルはおしまい。夢からさめると地の中より這いでくる女たちは一粒ひとつぶ匿名の現実主義者。まずしきはたらき蟻。武器を手にてに敵を抹殺せんとして。
夢みたものはみんな罪。MAOを知っているのはおぼえているのは悪。ただの夢だとわかっていても容赦なき時代の裁きのまえに。
わかっでいるのよわかっていたのよはじめっから。しんじてなんかいないからそれが嘘だとわかっていたからわたしはもはやMAOにはみすてられ。それでも幻想を享楽した以上は執念深く嫉妬ぶかい女たちがわたしを許すはずなく。わたしは名札を貼りつけられ追われて逃げてそれでもみっともなく生きたくて臆面もなく臆病にもごめんなさいごめんなさい傷ついた自分を哀れにおもうMAOへの裏切り。うらみながら侮りながら闘おうとしない卑屈。

ふたたび顕現

海が割れると。
厳かに尊くも畏くも神がみの列は紫の雲のあいだよりしずしずと御降臨。
そんなあほな! あまりの展開に失笑するひまもなく現実主義者たちは猛り狂った浪に呑まれ口ぐちに呪いの言葉を吐きながら滅び去る。彼女らの語る正義は怒りにふるえながらああ道理無き末世よ、頽廃の幻がなぜ私たちを殺すの! こんな馬鹿なことって! あんたたちなんか何の実もない幽霊なのに! 世に害悪をまき散らす悪魔なのに。ただしいのは現実なのに!
現実が夢を滅ぼすべきなのに。
そのとおりですともあんたらはつねにただしい。わたしだってあの楽劇は虚構だとわかっていてそのつもりでたのしんでいたはずなのに。いまめのまえでおこっているできごとはいったいなんなのMAOのみえない影に怯えながら。いつのまにみについた自己防衛なぜだか生き残っている自分の肩を抱きながら。
神さまのとおりみちをさけて身を隠す石柱の陰。まぢかにみる女神たちはこうべを昂然と無表情にゆるく緩いあしどりで。ながく永い儀式の行列の最後尾にはまるまると肥った童児神。あやういはやあしでおとなたちのあとを懸命に追いかけて。やりすごしてそっとついていったの。舞台のはなみちのいちばん端からおとなしい海へひとりひとりまた空へかえっていく神がみの最後の童児神の姿がいまにも消えんとして。いかないで!
走っていってつかまえようとしたの。わたしにただひとつのこされたねがい。

カタストロフ

そのわたしのゆぴをかいくぐってすうっと消滅すべきだったのよ。だってかれはわたしのゆめなのだから。幻想の中の神さまなのだから。わかっていたはずなのだからそれでじゅうぶんだったのだから。
しかしてのひらはかれのしろいやわらかいししむらをとらえて。いきもののあたたかささえかんじたの四肢を愛らしくばたばたさせてMAOの幼児なるさいごのぎせいの童児神。うたぐりぶかいとまどいをとがめるすべすべながれるはだふわふわはずむにく。
でもかれを捉えてどうしようというのか?
虫の良いわたしをMAOはもはやゆるすまい。それがおまえの罰ハッピーエンドのないぶざまなおしばいMAOのいない海辺の廃墟生き易い地獄。石鹸臭いテレヴィ女優に身を堕としMAOは今日もわたしをまっすぐみつめ恐ろしい笑顔をうかべて。わたしわたしはわたしこそMAOのうつくしい赤子になりたかったのに。

0 件のコメント:

コメントを投稿