2019年6月1日土曜日

ペコの貌(かお)

顔に怪我したときの補償額は女性と男性で違うと聞いた。
それって差別だよね、と思う一方、それだけ女性では顔が人生を決めてしまう現実があるんだからしょーがないよねとも思う。
なんでわたしはこんなにもじぶんの顔が気になるのだろう?
わたしが女だから?
顔が良いと幸せ。
顔が悪いと不幸せ。
顔が良い人は幼い頃からみんなに可愛がられ恋愛も結婚も就職も社会関係も全部うまくいくし挫折もないから素直におおらかに育って性格も良いでしょ。
顔が悪い人は幼い頃からみんなに邪慳にされ何かと逆境に遭い性格もひねくれて人生ますます悪循環に陥るでしょ。
だからわたしははじめっから人生を諦めてるの。
わたしの顔では一生結婚なんかできない。幸せなんて望めない。
たまたま就職はできたからいまの会社にしがみつくしかない。
よっぽどブスなんだとお思いでしょう?
それどころか。
わたしの顔は怪物だ。
(・・いそいで注釈しておくと顔にアザがあったり傷があったり先天異常があったりする人たちの社会的活動はすごく大切だと思うしがんばってほしいと思う。でもそういう人たちの顔をいろんなメディア通じて見てみてもわたしには「怪物」とは思えない。むしろ綺麗だと思える人もいる。わたしの顔の怪物性はまたちがうカテゴリーなの。活動とかではどうにもならないたぐいの・・。)
(・・じぶんの顔に不満なら整形すればええやんという人もいるけど整形で調整できる程度の方々も羨ましい。目をちょっといじれば鼻をちょっといじれば理想の顔になれるんでしょ? 一重まぶたがずーっとコンプレックスだった中学生も高校か大学生になってプチ整形でもすればすぐなおるんだからこれほど簡単なことないじゃない?わたしの顔はひとつ一つのパーツがどうとかではなくむしろパーツの一つひとつはたとえば二重まぶたでそれなりに許せてもそれを収めるべき全体がもうダメだからダメなの。もう整形のしようがないの。)
わたしの顔の怪物はね。
たとえばゴヤのサトゥルヌスとかフランシス・ベーコンとかのたぐいね。
わたしの顔はほっとくとどんどん端へ端へとながれていく。どんどん輪郭が崩れる。際限なく広がっていってカオスになる。ニンゲンを逸脱してニンゲンの顔でなくなる。幽霊になりそして怪物の顔になる。
とくに夜。一人で部屋にいると自分の顔が端っこから融けてながれて中心が歪んで捩れてベーコンみたいな顔になっていくのがまざまざとわかる。
だから毎朝起きるとまずじぶんの両頰をぽんぽんと叩いて確認する。まだ固形物かしらん?融け落ちてデブリになってないかしらん?
おそるおそる鏡を見てニンゲンの顔に見えるか確認する。
ああよかった。まだニンゲンだ。
でも醜い。
ああ醜い。
醜いけどとりあえずニンゲンだ。
で、ホッとする。
でも鏡を見るのはほんのチラッと。あまりに醜くて正視できないから。社会人として化粧はしないといけないので最低限の化粧はするけど鏡を見ずにする。じぶんの顔を確認できない状態で化粧するわけだからひどい出来だろうとは思うけどそれしかしようがない。
なんでわたしはこれほど顔に取り憑かれているのだろう?
こんな変な妄執に取り憑かれていることを多くのわたしの知人友人らは知らない。そんなこと会社で口に出したりしないから普通の人と思われている。
思いあまって訪ねたセラピストは「醜貌恐怖」という言葉を口にした。女性のセラピストだったけどいろいろしゃべっているうちになぜだか突然怒り出した。確かにその女(ひと)は美人とは言い難いお顔の方だったけどべつにごくごくふつうの顔した女性だ。正確な文言は覚えてないけどこんな感じのことを言った。貴女は(わたしのことね)私(セラピストさん)に比べるとずっとずっと美人だ。私なんて外見に関してはコンプレックスのかたまりで不細工のせいで昔から随分損をしてきた。貴女なんかそんな風に損したことなんてないでしょ?心当たりある?ないでしょ?そんな貴女が自分を醜いと言い張るのはおかしい。決定的におかしい。おかしいだけではない、ホントに不細工な私みたいな女をないがしろにしている。美人なくせに自分は醜いのだと言い張る人たちはそうすることで自分よりも醜い幾多の女をないがしろにしたいだけなのだ。ただただ人を踏みつけにして自己防衛したいだけなのだ・・(みたいなことを怒りながら言ってた。)
ちょと呆気にとられてしまって・・
まーったく心当たりないんで・・
ええと、不美人だと心も歪むという典型の方ではありません?
わたし、わたしは自分よりもご面相の悪い人をないがしろにするつもりなどありません!
というか、そういうことが問題ではないの。じぶんの顔が怪物であることを問題にしているのであってほかの人のことなどなーんも考えていないの。比較の問題ではないの。なんでそれをわかってくれないのか・・。
べつの友達はこういう実験をしてくれた。女性の肖像写真を10枚用意する。ある一枚とべつの一枚を比べる。美人は右へ不美人は左へ。この検証を繰り返して右から左へと美人から不美人の順に並べる。で、あんたの顔の写真を出してごらん。(携帯で簡単に撮れるし。)あんたはこの人と比べて美人?不美人?いちばん右のいちばん美人よりは確かに劣るわよね。でもいちばん左のいちばん不美人よりは明らかにマシよ。自分の顔がこの美人の10段階のどの辺に入るか検証してごらん。で、一人ではできないわたしの代わりに検証してくれて、わたしの顔は真ん中より少し右寄り、つまり相対的に美人側に入ると判明した。ホラあんた美人じゃん。何が不満なん?なんでそんなにじぶんの顔が醜いなんて思い込んでるの?
そう言われるとなにも言い返せないんだけど・・。
でもやっぱり「怪物」という概念はまたちがうと思うんだけど・・。
だって客観的美人でも怪物顔っているでしょ?
おお!恐ろしい話を始めた。
たとえば(めちゃ古い例だけど)原節子ってとんでもなく美人だけど同時に怪物ではない?
おやおや貴女は自分と原節子を同列にお扱いになる?
いえいえいえいえいえいえ・・とーんでもない。いや、ただ、世間で言うブスとか不美人とかとわたしの怪物はちがうと言いたいだけで・・。
そんなにも自分がとくべつだと言いたいだけ?
じぶんのエキセントリックを売りにしたいだけ?
・・そうなるともうあとは責められるだけ。
・・何にも言い返せないけど悔しさがこみあげる。
けっきょくわたしの悩みは誰にもわかってもらえなくてそれっきりになる。
優しい人はむしろそのことに触れない。
わたしの醜貌恐怖を知ってる人はわたしの周りに数人いるけどべつにもう特にそのことを話題にすることはない。
めんどくさいから触れないだけか思いやりで触れないのかどちらかわかんないけど・・。まー後者と信じておこう。
わたしは毎日機嫌よく会社に出勤し12年間クビににもならず目立たないふつうのOLをこなし休みの日は大好きなアイドルのコンサートやイベントなどを見に行き休暇が取れればアイドル追っかけて日本各地・香港台湾北京まで行き少し長めの休みが取れたらニューヨークかロンドンに飛んで本場のミュージカルを見る。
優雅でしょ?自宅通勤でそれなりの会社のそれなりのOLとして鬱陶しい人間関係や理不尽な扱いに耐えつつ働き続けてきたからこそできることなんだけど。
そんな生活に満足している。
貯金なんて一切ないし一人暮らしの女性の貧困にいつ陥るやもしれないあやうさは常に常にわたしを脅かすけど・・
アイドルだけを心のたよりとしていっぱいいっぱいファンタジーに耽り現実の男の人とおつきあいなんてしないしお見合い話も受けない。
だってみんなわたしの本当の姿が見えていない。
いや見えていてわたしに本当のことを言わない。
わたしが
怪物だってことを。

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