とんとん一段降りるごとに肩叩かれる。死神に
とんとんとん踊り場をぐるっとまわれば殴られる。待ちかまえていた悪意に
とんとんとんとん急いで降りると足掬(すく)われる。悪戯小鬼に
とんとんとんとんとん
落ちれば5秒とかからない。
落ちるかもしれない と
落ちるに決まってる と
落ちることを知っている と
ああやはり 落ちることはわかっていた と
落下の蓋然性をめぐって
めぐりめぐるうち 知っていることを知らぬふりして
背後からつけてきている死神と
壁に塗りこめられた悪意と
段差に仕込まれている小鬼と
それでも我慢してつきあっていこうとするのは
ぶわぁぁぁっと黄色い土埃の舞い上がる分厚い あなたの匂いのカーテンの
襞につつまれ
心地良く血しぶきのスローモーションに酔い痴れて
ここがここ
ここしかないここ
いまがいま
いましかないいま
を確かめるためと 嘯(うそぶ)きながら
ときどきは不平を洩らしたくもなる。
あたまを撫でてくれ
と
しつこくしつこく要求したくもなる。
たぶんこの詰問口調があなたをうんざりさせるだろうと
なぜ撫でてくれないのか
しか囁くことのできないわたしを
それでも我慢して やしなっていこうとするのは
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