2019年10月21日月曜日

終わりのヴィルス

なぜ光は点滅するのだろう かげはかげとしてそのまま認識できないのだろう。なぜ
たったいま終わってしまったなにものかを 今まさに始まりつつあるなにかと
取り違えるのだろう。覚悟の欠け落ちた人間は
気づくのがいつも遅すぎる。気づいたころに
終わりは折れ重なってすでに到来していて
時の体内ふかく浸みこみ複製装置を蝕んでいる。ところどころ脱落し
誤って書き換えられたデジタル信号ほどナサケナイものはない。カウンターをこまめにリセットしても
つねにずれを生じるラップタイム。修正しようのないラグ。

除去しようのないバグ。ぞろぞろ這いずりまわるザムザ虫のこらずはぎとってしまわぬかぎり
この寝台にまれびとをむかえることはできない。めりこんだ背後から遊離し寝返りして
わたしを見据えるわたしの鏡像。光学効果をひとひねりくわえて
暗転する 見知らぬひとかげ

ショッピングセンターの柱の四面にぺったり貼りついた水たまりの
かげに予期せずすれちがうとき
わたしは人間の顔をしていない。
とうに時を終えてしまってあてなくはざまにあぶれた怪物の顔をしている。油滴ひとしずくたらして
うつるかげ

最も切実に関係するのに、わたしから最も遠いところでわたしと関係なく執りおこなわれる。わたしは
終わりに立ち会うことはできない。

壁にうずめこまれた死人の肖像画がもっとも人間らしい顔をそなえているのは
かれらが早めに終わりに気づいた聡明なひとびとだったからだ。
終わりをはじまりと勘違いするたびごとに怪物は醜くなる錠剤を一粒ひとつぶ
服用している。くすりが腕のすみずみにまでしみわたってどんより重たい

もちろん奇跡は きちんと端正に死んでいる人びとにしかおとずれないわけだし
奇跡を待ち臨むのもまたあさましい。迂濶きわまりなく
断片化し もうもとにもどせないまで書き込まれてしまった。記憶装置

ぶっこわれたなつかしの記録装置よろしく対向車線に渋滞したくるまの一台からたちのぼる女性性器の俗称の連呼に
あほがとわらいながらすれちがい終わってから そんながきっぽい
世界を構成する欲情の輪環のかたすみに
おなじように鈍くふるえている怪物の楽器もまたわたしのものだということに気づいて
ぞっとする。

確かに共振しているのにことさら誇らしく宣言しなければならない I can't hear you.
漸くたどりついた国境に飛行場の荒漠を支配しながら ざわめく あさましさに立ち会いながら
さて 出立しかねている ヴィルス熱に襲われて

瀉血しないとだめみたい
それとも血を注射する?
それともDNAファイルを差し換える?

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