2019年10月24日木曜日

イチゴゼリー

刃のかたがわにゼリーを塗っておくと痛くないのだと
やさしい手術人はいうのである。
つぶつぶのはいったイチゴゼリー。とろとろにながれるほどのカタサの基調のジャムに
真珠ほどのまるさのカプセルのようにとじめのついた紅い透明ぷりぷりつぶゼリーをどっさり配合しました
そのなかにイチゴの種(あるいは罌粟粒)が無数に重なって透けてみえる。
たっぷり取ってかれらの信奉する名人の鍛えしわざもの銘刀ナニガシ真剣白刃の片面に丁寧にぶあつく塗っていくのである。
これで切ると甘いからという。
これで切ると痛みがゼリーにとろけて
ホトンド快感なのだという。
「麻酔のゼリーか?」と問うと、「そのようなものだ」と言葉を濁すのだが
なぜそんな言い方をするのかわからない。
なぜって、妹が管をさしこまれるときに敏感な箇所にはすべて麻酔ゼリーが塗ってあった
というから。苦痛をやわらげるために。なにかからなにかをふせぐために。

静謐な なにかから
押し寄せる なにかを禦ぐために
かれらは深長にぶあつく片側を蔽い隠していく
人工がつくった人工物を組み合わせた模造のウェルメイドのつぶつぶイチゴのゼリーで
人工がつくったいちばん良きものの片面を台無しにして
「血は痛くないよ」
「血は甘いよ」
とつぶやくのである。

それでもひとり。
光るかたがわはのこっている

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