2019年9月11日水曜日

マイ オウルド シルヴァ フレイム

よそゆき仕度できました
Tさんがお連れくださるというのですものどこへでもまいりますわ。うふふふふふふふ・・・女はわらって帯を解く。
おいおいおいおいそれはよそゆき仕度を解いているのではないのかい
武装解除は攻撃のしるし男はだまって身構える。緑の矢ふりしきる滴りの野原において

広津神社境内ななめに横切り感情の刃先につとふれてから石段をおりていく蝸牛にあいさつをわすれ
眼下におさえる善美堂にめばりをくっきりいれた若侍のゆうれいが透りぬける。
侍の名は○○△△××衛門と記載したところでゆめまぼろしだから瞬時伏せ字にかわり
菊さまの表札を(まだご健在かと)そっと確認してからゆるゆるおりていく蒼谷の砂利道でいつもながれていた。
いつもかすんでいた。
僕の
マイ オウルド シルヴァ フレイム

そこできまって草履をなくしたといいつのるのだ。どうしてくれるのよ草履がないと歩けないじゃないの!どうしてくれるのよ大事な草履なのに?!
え?なくしたのはおれのせいなの?
だってここまでつれてきてから・・・ついてきたのはだれだってんだ?阿呆くさと顔をそむける。
だって草履がないと歩けないじゃないの!歩けない草履がないと歩けない・・・あとは涙とリフレイン 草履がないと・・・草履がないと・・・草履がないと・・・
ここは夢なので同情もしないし実務的な対応もしない。それどころかあまりの阿呆らしさに吐き気をおぼえ・・ここでお助けばあさんでも飛んでこないことには話にもなんにもなりゃしないが
そんな都合のいいもんは天からも地からも勿論かなたからもあらわれず
びっこひく二人三脚ひこひこひきずりながら哀れを全身にした
泣く女

男はひたすら
平身低頭

おぼえているのは 女のひかがみ 男のぼんのくぼ
ふたりの ひょこんとくぼんだ箇所に ひゅんとたましいがすいこまれて たゆたい
つかのま すくせがふれあった。
ぼんのくぼ とろんと伸びる六角形帽子の吸い込まれていく白壁のお堂を向こうに見てからに
黄金色の枯葉の裏山に這い登るくるぶし白足袋はぐじょぐじょ銀鼠によごれてぬれて裾からげ
ふくらはぎ ひかがみ いたいけに伸ばしきり ゆるやかな坂ひとのぼりひとのぼり 大股の男にふーふー追いつきながら喘ぎ喘ぎの合間合間に一齣一齣わたしの罪を数えあげてみせるのだ。嫁入り支度にもってきた乳白硝子の金魚鉢粉々に壊してしまった・おとうさんの写真をいれてた銀の額縁失くしてしまった・大切に窓辺に吊りさげていた薔薇の枯花ぱりぱりに割ってしまった・つるつるに磨いた赤林檎たべてしまった・お気に入りの天竺鼠の毛皮の靴取りあげてしまった・・・わざとじゃないわざとじゃないって幾度も幾度も謝ったじゃないか・・その代わりじゃんけんに勝ったらぴかぴかの緑の靴をくれるって約束だったわ・あたしずっと以前に勝ってたのにいざ頂戴っていうと引換期限はとっくに過ぎているからってくれなかった・・いまごろそんなこと言われたって・・おまけに頂戴頂戴ってその場を動かないあたしを物乞いのように餓鬼のように扱ったわ・秘書があたしを目の仇にして憎々しげに追い出しましょうかというのを止めもしなかった・・そりゃ状況をはたから冷静に公平に見りゃあんたは単に卑しいさもしい性悪女でしかなく・でも俺だけは事情を知っているのだからそれでいいじゃないか・・知ってて言わないのは卑怯よ・あたし悔しくて悔しくて足摺りして悔しがってもあなたはあたしを冷たく見おろすだけ・・見おろしてなんかいないただ気の毒だと思う・・それが見おろしてるっていうのよ恨みつらみ妬み嫉み僻み自己卑下どうせあたしなんか低脳無知の哀れな女だとおもってるわけ・・だけどもう緑の靴はあげられない期限切れだから気の毒だと思うけど・・たったひとそろいの緑の靴よ・それだけそれだけそれだけなのに・・・長々長々長々続く追っかけっこ。
もうそこまでは側溝も疎水も水道橋も通じていない奥山にこれほどまでに踏みこむまでにふたり彷徨い来た末に
わたしがついに根負けして平身低頭するまでに。
あなたは勝ち誇った顔面つきあげさらに大泣きに泣き崩れ
せなかからおおう全身で敗北をあらたにする。

ちろちろ燃ゆる銀のほむら女神の立ちつくすてっぺんにまでいちどもいったことがなかった
ままに もう銀は錆び ほのおもひくく消えかけて
あおぎみても頂上はもうみえない

平身低頭
するほうが勝っている。
という世にもありふれた人の世の法則の卑猥卑俗卑近ぶりにふたりして唖然呆然うちひしがれながらもやっぱり僕は
平身低頭するしかないのだよ。どっちが
勝った負けたしかなかったね。君と僕とのあいだでは

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