2019年8月27日火曜日

恋唄

文脈から切り離され
歴史の流れからそこだけ ほわり浮き上がった身体
それとも 肉体?

好きな人よりも まるで関係ないひとの肉体のいちぶのほうがナマナマしくみえる。
19:45発新快速野洲行待ちの列に並んだ
金髪のにいちゃん(たぶんモンゴロイド)の耳たぶの背面のピアス穴近くに
こびりついたちいさな血のかたまりだ。

対してこちらは
逆光の朝陽にほわりと浮かんだ イマージュだけの白いプラットフォームだ。
恐ろしい視線だけのプラットフォーム
たまに ひらりふわりと気まぐれ風をヴェールにふくませ
必殺微笑み光線を呉れる。
で、すぐまたヴェールは平常顔にたれる。

わたしはプラットフォームにせっせと植栽する。
思惟的な三色すみれだったり
規範のひこばえだったり
麝香鹿の爪
あなたがあやつる
八角形の糸車だったり
アホネタとか馬鹿っ話とか 世間がいう類(たぐい)のぐだぐだだったり
きのう偶然2度も聞こえてしまった
Love Is a Many-Splendored Thing
だったり。

あの血はいつまで液体だったのだろう?
「ちょっとちくっとしますよ」といいながら、例の看護婦さんにあたれば針は全く痛くない。
わたしはまるで液体とおもえない赤黒いbodyがすこしだけ渦をたてながら透明な円筒に吸い込まれていくのを注視している。
・・・あなたのばあい抗***抗体が見つからないんです。90%の人には見つかるのですがあとの10%の人には見つからない。だけど最近、新しい検査方法が保険承認されましてね。それだとあとの10%の人でも見つかる可能性が大きい。まだ実験室レベルのデータしかないので確かなことは言えませんが。あなたの場合もきっと見つかるとおもいます。見つかったらそれがマーカーになるし・・・。
わたしはなんとなくこんなイメージかなとええかげんに聞いている。抗***抗体のこともこれまでの検査法と新しい検査法のちがいも先生は丁寧に図を描いて説明してくれるのだが。
なんだかアルファベットと数字でできた略語をずいぶん覚えたよ。略語をもとの英語に戻せばどうなるかもだいたいは言えるよ。忘れててもぜんぶ手帳にメモしてあるよ。だけどわたしに残るのは抽象でもない具象でもない中途半端に陳(ふる)びてしまったイマージュにすらなっていない記号の断片だけだ。
その断片たちが生きたわたしの肉体を刺し示すわけだ。先生のおっしゃるには・・・
それとも身体を?

あなたのナマの身体を刺す記号が欲しいだけなのか?

金髪のにいちゃん背中まぢかから凝視してても痴漢と間違われる気遣いのない位置に立って
ロス・アラモス色に輝く例のプラットフォームをまたミラージュする。
目前の軟弱産毛そのものの肩(だけど決して悪くはないむしろ好ましい)よりもさらによわよわしい
“紡ぐひと”の肩になっていた
すこしひだりにかたむいていた あなたの肩を抱きたいとおもうのだが。
“紡ぐひと”の手つきになっていた その指の背に
そっと触覚をすべらせてみたいとおもうのだが。

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