2024年1月16日火曜日

Oくんはね

Oくんはね
おっきいから 自分のこと Oくんてよぶのかな
なんて あほなことを 夢想してたら
当のOくんが わたしを上からのぞきこんでいて
一緒に帰ろ って言ってくれるのだ
やった! 一緒に帰る相手ができた
だって この帰り道は ひとりじゃ不安
途中に 怖い秋田犬のいる角があるんだもの
Oくんがね 一緒に帰ってくれるのだ

テニスコートの外側の道を 大回りしてあるく
ふたりであるく
川沿いの道を ゆるゆるあるく
ふたりであるく
ぽつぽつ しゃべりながら あるく
前になったり 後ろになったり
ならんだり ずれたり
ちらりと見たり 見なかったり
おたがいを見たり 見なかったり
お花や草や虫や小鳥や ちいさなものに目をとめたり
電車の音や川の流れや鳥の声に耳を澄ませたり
樹のはだに 触れたり
木漏れ日を 透かして見たり

Oくんは 大きなどんがらして 意外と小心者で
自分のことをみんなが噂しているのがつらい
ぼくの肘のことを あんなふうに 言われたくなかったんだ
って 悲しそうに訴える
そうだよね
あんなふうに 言われるの つらいよね
(気にせんとき とは 言わないでおく)
その他もろもろの
よしなしごと
ぽつぽつ しゃべりながら 聞きながら
帰る 道みちが たのしい

だけど ふいに気づくのだ
帰り着いたら
わたしたちは 別れなければならない
えっ そうなの? Oくん
お家にたどり着くと わたしたち そこでお別れなの?
Oくん そこは織り込み済みなのか
平気な顔して微笑んでいる
わたしは そのことが 気が狂うほどつらいのに
Oくんは 悲しくないの?
わたしたちの帰り道は
たどり着いたところが 終わり
終着点

これは 帰り道
どこかへ行く道ではない
目的地がない
だって お家へ帰る道なのだもの
帰り着いたら そこは 終点
行く行くではなく
来る来る
帰る帰る 道を
Oくんとあるく
だから できるだけ ゆっくり 歩こ
ひと足 ひと足 ふみしめながら ゆっくり 行こ

そうしてると べつのともだちから LINEがはいって
Oくんの名前がついている(でもOくんと直接関係はない)美術館で
白い梅がぽつぽつ 開き始めていると
蝋梅はもう咲いていると
写真をおくってくれる
蝋梅のつるっとした 肌合いが
Oくんの顔に似ていなくもない
わたしは 川と 電車と すっかりはだかの桜の枝えだとを
写真に撮って ともだちに おくる
Oくんのことは 内緒

ものかは

闇のなかに浮かぶ光だまりに
女の後ろ脚がみえる
膕(ひかがみ) のくぼみにやどるうすいかげ
脹脛(ふくらはぎ)
踝(くるぶし)
蹠(あしのうら)
ものとして そこに放り出されてある もの

裸(はだか) はだか はだか はだか ・・・
はだか のおおぜいの 背中 たちが
うすしろい 灰色の ひかりのかたまりとなって みえる
はだか の からだ たちは
邪魔だ
いらん もの
不要
だから 産業廃棄物をはこぶトラックに載せられ
土のくぼみに あつめられ ただに 捨てられる
埋められる
ごみ
もの
はだか たちを
不要と みなす 者たちは
人間か
人間でないか

土で捏ねた からだの なかみは
稠密で 重い
みっしり重い からだを ならべて
行進する
土の兵隊は
ものか
人間か
土をこねて
兵隊にする 者たちは
人間か
人間でないか

からだが 殻になるとき
    空になるとき
中空に火がやどるとき
火が ふきあれて 風になるとき
からだは まいあがる
のぼる くねる まがる たわむ のびる ねじれる まわる まわる まわる
とぶ とぶ 跳ぶ 飛ぶ 翔ぶ
翔ける
空へ むかって 翔ける
土を たたく はねる
地を ふみしめる 摺る ありく
ありく ありく ありく はしる
うごく からだは
ものか
ただに ものか
人間か
人間でないか

土からたちあがる 踊り手の 腕と手は
ものか
ただに ものか
カウンターに 無造作に なげだされた
女の 一の腕
ふくらみに 光がやどる
それは
ものか
ただに ものか
まわりの世界が くらがりに沈むとき
人間は
ものに なる
ただに ものに なる
人間で ないものに なる

2023年10月27日金曜日

天使の影

イングリッド・カーフェンの白い背中
背中の広い逆三角形
白い広い三角に 肩甲骨の影が宿る
天使の影
がよこぎる
その白い三角が シナイ半島にみえる



彼女をいたぶる
男たちの 胸元の ネクタイの曲がった
細い白い逆三角形は
イスラエルか

ユダヤ人が
ヨーロッパ人にとって躓きの石なら 

パレスチナ人は
虫けらか
駆除すべき害虫か

ガザは
ネクタイについた シミか
皆殺しは 漂白か

イングリッド・カーフェンの背中の三角
すべての闇を呑みこむ


2023年9月25日月曜日

をさなごころに

たいせつなひとに嘘をついてしまった日の

たいせつなグラスを割ってしまった

むくいや

むくむくと いいわけ いくらでも
いくらでも わきでても なんのやくにもたたぬ
とりかえしのつかない


こんなとりかえしのつかない

を くりかえしながら

たいせつなものを
ひとつ ひとつ こわしていく

むくいや

2023年9月14日木曜日

あけがたの夢で

あけがたの夢で 横向けに寝ていたわたしの口から
花びらのように次から次へとことばがふきでてこぼれおちる
わたしの頬や胸がしわくちゃの茶色の包装紙で 空気をいっぱいふくみ
あたらしいことばたちをふきだして
ああこんなに自由に
ああこんなにたくさんの ことばたちが
そこらじゅうを舞っている

しばらくすると
半睡の夢から意識がすこしずつ覚醒して
ふくらんでいた包装紙を 縛る紐があらわれる
いっぽん にほん …
紐がつぎつぎと掛けられて わたしのからだを縦横にしばり
ことばの ふきだし口もふさぐ
あんなに いっぱいあったのに
あんなに 気ままだったのに
縛られてしまって窮屈に揃えられたことばがいま
今日つかう言葉としてわたしのなかにスタンバイする

ああこれだから
いつもいつもありふれた言葉しか出てこないんだ
縛られた思念 整えられた思考 なにかに号令されて
きょうのわたしのことばも いつもとおなじく
狭いからだのなかに押し込められ
整列させられ
世間に 通りの良い言葉として発せられる

あけがたの幸福な夢は そうしてふっとび
きょうも いつもとおなじ 退屈な ことばの日暮らしがはじまる

それより以前 夜中

熟睡しているわたしのなかでは
真夜中に きっとわたしの下腹あたりにかたいかたまりができ
ことばたちの種が詰まったかたまりは
一晩中かけて胴のなかをとおりぬけ
胸でふくらみ
頬でふくらみ
あんなにも はげしい
ことばの乱舞をひきおこしたのだ

2023年9月13日水曜日

台風LANちゃんが来た日

沖縄を睥睨してった台風6号は
まるでプレデターみたいやったね
肉食爬虫類が鋭角に向きを変えて
獲物を追って走り回ってるみたいやったわ

とかなんとか言うてると
次の台風7号が・・
とLINE友だちから一報
台風チャンネルで確かめると
なるほどその通りで
そこからは
3時間ごとぐらいにLINEが入り
台風の愛称をつかって
LANちゃんいまどこ
LANちゃんどこへ行く
外はいまこんな感じ
LANちゃんどこやぁ・・
その都度台風の位置を確かめると
近畿を直撃するコースになってたり
少し東寄りになってたり
西寄りになってたり
確かめるごとに予想コースがちがってる
しかしどうやら明日上陸は確実かな?
明日はそもそもお盆で仕事がなく
実家に帰るつもりやったけど
早々と「来んでええよ」と電話あり
そのあと映画2本観るつもりやったけど
早々と「明日は休館です」のお知らせメールある。
けっきょく明日は自宅軟禁かい
暴風警報波浪警報大雨警報
特別な警報が出てる地域もある
鉄道調べるとJRは軒並み運休
おお環状線も止まるんかい

目が覚めてまっさきにテレビつけ
まず東海地方の局がレポートしてるのが見えて
さては東寄りのコース行ったかな?
と思うと今度は神戸が映り
どうも淡路島のあたりにいるらしい。
そこからどういうコースを辿っているのかようわからん
アパートの11階のサッシ窓の内は静かなもんで
風の様子も雨の様子もわからない。
静かやな
以前の台風で
サッシを叩きつけるように雨風吹き荒れたときとえらいちがうこと
LINEともだちからのLINEはない

午後3時。そろそろ外に出てもいいかな?
窓の内にいると静かなもんやったけど
扉あけると雨音ざーざーして結構降ってるのがわかった
のでいったんあきらめる。
暴風警報大雨警報もまだ解除になっていない。
午後5時。そろそろいいかな?
扉あけると雨音なく
下界を望めばだいぶ小雨になっている模様。
よし、歩きに出よ!
コロナ禍で仕事もない映画館も開いてないジムもやってない頃
よくそうしてたように
雨の日は雨に濡れない商店街を行ったり来たりで歩数を稼ぐ
歩き始めると
風雨が収まるのを待ちかねていたのか
結構商店街人通りが多い。
お盆でそもそも閉まってる店 台風で閉まってる店を除くと
開いてるのはパチンコ屋カラオケ屋呑み屋のたぐい
みんな居場所が欲しいのだな
天満駅の近くを通りかかると
頭上を電車の音が駆け抜ける
おお環状線が動いてる
しばらく歩いて帰りにまた駅の下を通りかかり
環状線が動いてる

うちに帰ると
昼間音無しだったLINE友だちからLINE
よかったねー大したことなくて
互いの無事を確かめあい
なんせ21号がトラウマになってて
台風と聞くとしばらく前から生きた心地せえへんねん
昨日の頻繁なLINEと
今日の音無しはそれだったか・・
その21号のときは・・の話になる
そうそう今日思い出してたのもそのときのことで
あの日はサッシを雨風が叩きつけて
知り合いのマンションで隔壁が吹っ飛んだ
LINE友だちのトラウマも大風によるものらしい
あの年は大阪地震もあったんやったね
そうそうそっちのほうは堅い地盤のおかげでなんともなかったんやけどね
うちもなんともなかったんやけど
北摂の方がひどかって・・
たぶん何度もした話
台風のあとしばらくして
友人のお連れ合いが亡くなって
震災のかたづけの流れやから
あれは完全に震災関連死やと思うけど・・
友人自身はそれどころやなかったようで・・
たぶん何度も繰り返した話
これからも繰り返す話

2023年8月28日月曜日

FukushimaWaterRelease3日め

果物屋の店先で
今年初めての青蜜柑を見つけた
うれしい
ことに青いのを選んで買う
今どきの青蜜柑は昔と較べで酸っぱくなく
物足りないけど
それでも青いほうが酸っぱみがあるような気がして
青いのを選んで買う
酸っぱいのが好きなんです
このごろは苺なんかもめちゃ甘くなっちゃって
いつかヨーロッパの市場で買った苺が
見た目は日本のと変わらないのに
酸っぱみがきつく野生味もあって
こちらの方がわたしは好みだったな
…てそれはまた別の話
目の前の青蜜柑は高知産

魚屋さんの店先に来て
   鮪の刺身を食いたくなったと
   人間みたいなことを
わたしも思うのだが
ホントは鮪よりハマチの方が好みなのだが
これからさきの日本の漁師さんたちのことを思いやると
心穏やかではいられない
山之口貘氏が
   死んでもよければ
   勝手に食えと
うたった灰かぶりの鮪の灰は
アメリカさんの落としたものだったけど
このたび太平洋を汚しているのは 日本の灰なのだ
そんなギフンにかられつつ
長崎産カンパチの刺身を買う

いつものように
車のかげのない赤信号の交差点を渡ってると
向こう岸にいるおっさんが
「おばはん赤信号やど」
とわたしを指差して言った
わたしは中指を立てたりせず
にっこり笑って通り過ぎた

※引用は山之口貘「鮪に鰯」より