わたしの透明な死体が幾重にも折り重なっている
その地点を
三度 通り過ぎた
十八年ぶりの春
一度めは おずおずと
二度めは 確信をもって 踏みしめる
三度めは ほぼ なにも考えず
それで終わったわけではない
かずかずの透明な死体を
葬ったわけではないが
いつ ほんものの 死体になってもおかしくなかった この春に
わたしは 生きている
生きている にんげんとして ここを踏んでいる
奇跡
奇跡のような
軌跡
川面をとおりすぎる舟の軌跡があり
川面に跳ねる魚の水音とすがたがあって
釣り人らは 若いのと年老いたのとが マスクなしでしゃべっている。
笑っている。
とおりすぎる こどもがいて
とおりすぎる 老人がいて
すれちがう ジョガーがいる。老いも若きも女も男も
ふみしめる さくさくと この年に
この 残酷な春に
無数の透明な死体と
(すごく多いけれど)有数の 具象の死体とが
どこともない 無限の 場所で
(すごく遠いけれど)ごくちかくの 有限の 場所で
つぎつぎ 折り重なっては くずおれる
この 過酷な年に