2020年5月20日水曜日

さんぽ

わたしの透明な死体が幾重にも折り重なっている
その地点を
三度 通り過ぎた
十八年ぶりの春

一度めは おずおずと
二度めは 確信をもって  踏みしめる
三度めは ほぼ なにも考えず

それで終わったわけではない
かずかずの透明な死体を
葬ったわけではないが

いつ ほんものの 死体になってもおかしくなかった この春に
わたしは 生きている
生きている にんげんとして ここを踏んでいる
奇跡
奇跡のような
軌跡

川面をとおりすぎる舟の軌跡があり
川面に跳ねる魚の水音とすがたがあって
釣り人らは 若いのと年老いたのとが マスクなしでしゃべっている。
笑っている。

とおりすぎる こどもがいて
とおりすぎる 老人がいて
すれちがう ジョガーがいる。老いも若きも女も男も
ふみしめる さくさくと この年に
この 残酷な春に

無数の透明な死体と
(すごく多いけれど)有数の 具象の死体とが
どこともない 無限の 場所で
(すごく遠いけれど)ごくちかくの 有限の 場所で
つぎつぎ 折り重なっては くずおれる
この 過酷な年に